4人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば二週間前、文化祭明け直後の部活帰り。その日もまた朝に雨が降っておらず、傘は持っていなかった。降り出した雨に困惑する中、部活の後輩が傘を私の頭上にさして、私を濡れないようにしてくれた。本人はびしょびしょなクセに。何度も「いいよ」と言って戻させようとして、完全に渡された後もずぶ濡れの後輩の頭上を遮ってやったが、拒まれ続け、最後は根負けした。この感情。あの日土砂降りの中を走る彼を見た時と同じようで、でも違っていた。後輩は恐らく義務のようなものを感じてあんなことをしたのだ。夕陽は違う。
困っている人がいたら力を貸す。それで自分が多少困ったとしても。
「あ、これ弱まってきたでしょ。もうすぐ止みそうじゃね?」
バス停のベンチに座りながら雨が止むのを待っていた。
「それにしても驚いたなぁ。新キャラ登場って聞いたけど、和菓子屋の真美ちゃん、二つしかコマないけどマジで可愛いわ」
私は深い嫉妬の念を込めて、雑誌の上を睨みつける。そして夕陽は必ず、私の態度に気づいてくれる。
「何その顔。あ、もしかして女子マネ派? 副店長派の人はわりとデパートの方での展開を楽しみにしてるから・・・・・」
「違うし! なんで私が女のファンになるの!? 普通ガッツ君か柴プーかで聞くでしょ?」
「あ、そうか。お前が女ってこと忘れてた」
「・・・・・忘れないでよ」
夕陽の放った何気ない(ちょっと私のことイジってる)一言に、私は結構傷ついた。小学生の時にされた告白の中に「女っぽい」という言葉は確かに入っていた気はするが、好きになった理由は別のことで、たぶん私が夕陽から女として見られていることはないんだ。きっと、これから先もずっと。
私が人に傘を貸すのは、嫌われないため。そして、「自分良いことしたな」と優越感に浸るため。
最初のコメントを投稿しよう!