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「私は死神博士。死を収集している」  夜行列車の中で、向かいの席の男が言った。私はその時ビールを舐めるように飲みながら夜景を眺めていたのだが、一体この男がいつからそこにいるのか、見当がつかなかった。彼は山高帽を目深に被り灰色の口髭を蓄え、黒マントの下にダークグレイのスーツを優雅に着こなし、更に洒落た紺の蝶ネクタイをしている。奇抜とは言わないまでも中々見ない風体だ。変わっているのは身なりばかりではない。空席はいくらでもあるというのに、この男はわざわざ私の前に座って意味不明な自己紹介を始めたのだ。不審に思いはしたが、反感を買うのも面倒なので適当に話を合わることにした。 「死を収集とは────。それはまた奇妙な話ですね」 「そうでしょう。世界広しと言えど、私のような輩はそうそういるものではない」 「それで、死の収集とは一体どんなもので?」 「そうですな、より正確に言えば、人を死に至らしめる苦しみを収集しておるのです。例えば──」     
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