1

4/8
前へ
/8ページ
次へ
 明日の宿題を終え、練習試合に用意していたテニス・ラケットを取り出し、軽くスイングしてみる。空を切るブオッという音が心地よくて少し長めにトレーニングをしてしまい、寝る時間がいつもより遅くなってしまった。ラケットをケースに戻し、部屋の明かりを消してベッドに潜り込む。中学に入ってからというもの、勉強もスポーツもそれなりに頑張って充実した毎日を送っている。両親は優しいし、小学生の弟は生意気盛りだが可愛いところもある。友達も部活を通じて何人もできた。ここ最近、毎日が楽しくて仕方がない。うとうと眠りかけて、ふと階下の物音に目を覚ました。時刻は真夜中を過ぎていた。ふと言い知れぬ不安がよぎり、部屋を出て階段に向かう。 「お父さん?」 最近父は帰りが遅い。早く帰って来ても、また仕事だとか言って晩御飯だけ食べて職場に戻ったりする。一階の廊下は真っ暗だから、何かに躓いたのかも知れない。そう考えて階段の電灯を点け、すたすたと降りていく。だが、階段を降りるに従い、何かがいつもと違うという予感が湧き始めた。父なら廊下に電灯ぐらい点けるだろうし、そうでなくとも台所や洗面所などに直行して何かしらの物音を立てるはずなのだ。それに、何? この臭い…………。鉄の錆びたような…………。それも鼻を突くほどに強い。 「お父さん? お母さん?」     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加