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異様な臭気と静寂に耐え切れず、私は階段を駆け下りて両親の寝室に飛び込む。そこには見るも無残な二人が血まみれの姿で、力なく四肢を投げだして横たわっていた。立ち竦んでいると、何者かに背中をどつかれて体が前のめりに倒れこんだ。血の海となった布団に頭から突っ込んだ私に、背の高い男が圧し掛かってきた。それからは地獄だった。両親の亡骸の傍らで、何度も何度もレイプされた。弟が途中で起きてきて、泣きながら男に飛び掛かっていった。私は止めてと叫んだが、弟が包丁で滅多刺しにされて殺されるのを見て抵抗する気を一切失くしてしまった。  警察の聴取は何度か受けたが、余りの衝撃に私は男の顔や体の特徴を殆ど覚えていなかった。もともと暗がりの中での犯行なのだ。金品が取られた形跡があるので押し込み強盗だろうと言われた。だが、私にとってはそんなことは既にどうでもいいことだった。私は腹部を刺されて瀕死のところを救出された。もう子供を産むことは出来ないらしい。顔にも大きな切り傷があった。それから二年が過ぎた。私は叔父さん夫婦に引き取られ、引き籠りの生活を送っていた。叔父さん夫婦もそんな私を扱いあぐね、度々私のことを二人でひそひそ話し合っていた。そして昨夜、私を施設に預けようと叔母さんが話しているのを聞いた。叔母さんはむしろ、私が廊下で立ち聞きしているのを知っていながらわざと聞こえるように話していた。その時不意に、もう死のうと思った。死にたい、死にたいと思い続けて、結局心のどこかでブレーキをかけていた。     
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