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死神博士の袖に体を預けると、どこか懐かしい匂いがした。今は亡き祖父もこんな雰囲気の人だったろうか。少しの間その感触を味わってから、小瓶の蓋を開けてエメラルド色の液体を飲み下した。漢方薬のような苦みと、不思議な甘さを感じさせた。全身がかっと熱くなり、体内の臓器が抜けていくような不思議な感覚が走り抜けた。そして彼の言葉通り、家族と過ごした平穏な日曜日が鮮明に蘇ってきた。かつて当たり前だった幸福な時間が、私を包み込んでいくのを感じた。
気が付くと、死神博士が真っ直ぐ射貫くような目を私に向けていた。
「いかがでしたかな?」
「何ともはや、悲惨な死があったものです」
私は嘆息した。自分の家族が同じ目にあったら、きっと私も耐えられないだろうと思ったのだ。だが一つ、私は重大な問題を指摘した。
「つまりあなたは、あの少女の自殺を幇助したことになりますな。これは犯罪ですよ」
「そうですな」
死神博士は、事も無げに言ってのけた。
「彼女には救いが必要だった。死という名の救済が。根本的な問題は、彼女を本当に死にまで追い詰めた原因は何なのかということです」
「それは──────」
あの殺人鬼だろう。私がそう言いかけた時、山高帽から僅かに覗く目を光らせて死神博士は言った。
「茶番は終わりだ。目を覚ます時だよ、殺人鬼君」
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