プロローグ

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試行錯誤 まずは聞き分けだった。小さい頃は常に耳栓をして歩いていないと、いろんな人に近くから話しかけられているような状態だった。意識しなくてもわかってしまう。母は穏やかな人だったけれど、虫にびっくりした時の心拍音、仕事に追われているときの呼吸音、怒っているときの早口な声…全て覚えている。1番近くにいた存在、母をモデルに人はこういう時に、こういう呼吸音になる。そして心拍音になるという事をまず学んだ。それは言葉を覚えるようなもので、意識しなくてもわかってしまうものだった。 年齢が上がるにつれて他の器官も成長するように、耳もどんどん成長した。いつしか耳栓はいらなくなったし、うるさい時は意識して聞くか聞かないかを区別できるようになった。だから、昔は騒音の中での会話だったが、今ではもっとクリーンな状態での一対一の普通の会話が成立するようになった。 ここまで大変だったのはメイの方だ。よく泣く子だと思っていたら、音楽を聴かせている時だけは静かにしている。試しに外でも小さめの音量で音楽を聴かせたところ、穏やかな寝顔になった。そうしてしばらくの月日が流れみみの異変に気がつく。そのきっかけとなったのはとある満員電車でのできごとだった。
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