プロローグ

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みみが小学生の時、花火を見るために満員の電車に乗ったことがあった。毎年夏休みに開催されるもので、規模は小さいが地元の人はみんなそれを見に行くため、電車は完全に寿司詰め状態とかしていた。そんな中、みみが突然こう言ったのだ。「お母さん!隣の車両にいる人絶対変!心臓の音がなんだかおかしい!」前から変なことによく気がつくなあと思っていたメイだったが、さすがに何かのごっこ遊びかと思った。でも可愛い我が子の言うことだ信じてなくても信じてあげる必要がある。なにせぎゅうぎゅう詰めの車内の中で、比較的隣の車両へのドアの近くにいたとはいえさすがにその様子は見えない。指差す方向に向きを変えようにもどうにも身動きの取れない状況だった。でもその時のみみのあまりの必死ぶりに大声を出すみみをメイは叱れなかった。不審な顔をしながらも、なにか異変が起きていることに気がついた乗客が道を開けてくれる。中にはガキが騒いでうるさいと言う顔で睨みつけてくる客もいたが、メイは笑顔で切り抜けられるくらいには強めの美人だったしそれを自覚していた。少し移動して、みみの言う反対側のドアあたりを見てみると、年配のサラリーマンがドアにもたれかかっている。満員で押しつぶされているようにも一見見えるが、その顔は不自然なほどに苦しそうだった。メイは何かモヤモヤしたものが確信になるがわかった。そこからは体が勝手に動いたという感じだった。そしてドアを無理やり開けて「助けてください!救急車!次の駅に誰か電話して!はやく!」と言うが早いか車両と車両の間にその男性を横に寝かしつけ脈を図る。呼吸がしやすいようにハンドバックを頭の下へ。周りの乗客はその場にいる数人だけがことの重大さに気がついていたが、いかにもヤンキーそうな男性が大声で「おい!静かにしろ!人が倒れてるぞ!」と言ったことでどこにそんな隙間があったのかというくらいの満員電車の車内で、半径1メートルくらいの空白の円が作られた。心臓マッサージをする間も無く次の駅に着くと、誰かが言われた通り連絡を取っていたようで、すぐに車掌と救急隊員のような人達が駆けつけてきて男性をタンカで運んで言った。のちにその男性の記事は新聞に載り、無事に意識を取り戻したと言うことを知った。
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