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「へ……?」
「へ、じゃないでしょ。お前、人の作品ガン見して楽しいわけ」
「ん……? あ、は、早崎!? お前いつから気づいて……」
「ずっと前からだよ。それよりお前、俺の作品勝手に見るのやめてくれる? 不躾だよ」
ぶしつけ。人生で初めて浴びせられたその罵りの言葉に、ぽかんと口を開ける。
え、こいつ……めっちゃ口悪いやん……。
「あ、あー! いや、ごめんごめん、たまたま視界に入っちゃってさ、その……早崎ってめちゃくちゃ絵上手いんだな! 知らなかった!」
絵と描いた本人のギャップが凄すぎて一瞬言葉を失ったが、なんとか言い訳を並べる。
早崎は怪訝そうに俺を見た。おい、その視線こそ不躾なんじゃねえのかよおい。
「は? 何当たり前のこと言ってるの?」
「へ?」
「俺の絵が上手いなんて当たり前のことじゃない」
う、ウワー……。出た、ナルシストイケメン……。
いっそ清々しいくらいに自分の能力を褒めてるコイツに、俺はとうとうかける言葉を完全に失った。なるほどな、早崎はそういうタイプの人間なんやな。なるほどなるほど。これは道理で男から嫌われて女から好かれるわけだわ。
「あはははそうですよねーあははは」
ヤバイ。一刻も早くこいつから離れよう。俺の本能がそう伝えている。
俺は早崎からそそそーっと離れ、ついに洗面台にも行かず美術室の扉へと直行した。そう、まるで危険人物から離れるときのような緊張感を持って。
後ろからまた罵詈雑言を浴びせられるのかと一瞬ヒヤヒヤしたが、ついに早崎は俺の背中に何も声をかけることは無かった。きっとまた、あのキャンパスに夢中になっているのだろう。俺はできるだけ音を立てずに扉を閉めたあと、ふうーっと安堵のため息をついた。
やべー奴を見てしまった。いや、なんとなく予想してたことではあったけれど。しっかし、あんなにナルシストな奴だとは思ってもみなかったなあ、わーすごい発見だー。
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