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「はー……おわったおわった」
「おー、立島もう終わったの? おつかれーって、まあ俺まだ線画も描いてないんだけどな」
「お前強すぎな……さー、今から片づけよ」
「あ、じゃあ俺さきに教室戻っておくわ。ちょっと用事あるし」
「おー、おっけー」
そう言ってそそくさと美術室から出ていった結城の背中に向かって、ひらひらと手を振る。
間に合うかどうかわからなかった油絵の課題は、隣の結城が大阪のおばちゃん並みに話しかけてくるのを適当にあしらいながらなんとか完成させることができた。なんかよくわからないけど、めっちゃ達成感がある。今めっちゃ気分清々しいもん。まあ、それはあのマシンガントーカーである結城がいなくなったことも原因の一つなのかもしれないけど。
俺は今回使った絵筆を持ち、美術室の奥にある洗面台へと向かう。その途中で、俺以外誰もいないと思っていた美術室に、もう一人まだ残っていたことに気づいた。
その人は黙々とキャンパスに向かって絵を描いている。
目は真剣そのものだ。というか、真剣すぎて殺気を帯びているレベル。ほんと、よくそんなに集中して絵描けるよな、早崎ってやつ。
考えてみれば、俺と早崎二人っきりっていうこの状況、結構レアなのではないか。早崎と一生関わることはないだろう、と今しがた結城と話していた時でさえ思っていたのに、まさかこんなに急な機会が訪れるとは。
とは言え、俺も早崎も特に互いに話すこともないし、そもそも早崎の方は俺の存在に気づいているかどうかも怪しい。キャンパスに釘付けになっているその目を見ながら、早崎ってすげーなーと月並みな感想を抱いた。
俺は早崎の方は見なかったことにして、改めて洗面台の方へと足を向ける。しかし途中で気が変わって、ピタリと足を止めた。
唐突に、むくむくと自分の中の感情が湧き上がってくる。それは確かに、さきほど結城と話していたときにも少しだけ脳裏を掠めたことだった。
早崎の絵、気になるかも。
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