【番外編】夢の続きを

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side乃木  明け方四時、成世の呻き声で目が覚めた。  腕の中の成世は悪夢にうなされたままだ。汗をかいた額に前髪が張りついているのが見える。呼吸は乱れ、眉根を寄せながら唇を噛み締めていた。 「……ん」  色を失った下唇が痛々しい。軽く髪を撫でてやっても、成世が目を覚ます様子はなかった。  悪夢の理由は分かっている。後藤田の命日が近づいているからだ。  成世は後藤田が亡くなった季節になると体調を崩しがちになる。ぼんやりと窓の外を見ながら考え事をしたり、苛々した様子で爪を噛んだり、食事を半分以上残したりと、落ち着かない状態を見せ始める。そして、そのことを悟られないように乃木にそっけない態度を取る。  全ては夜に見る悪夢、過去のトラウマのせいだと乃木は分かっていた。  ――どうにかしてやりたい。  成世に話を訊いても答えることはないだろう。深く追及したら、あっちに行けと言われて終わりだ。成世は乃木に心配されたり、心の中を読まれることを極端に嫌う。厭悪していると言ってもいいほどだ。  医者の小藪に相談してみようか。  専門的なアプローチが成世の助けになるなら、それもアリかもしれない。  とにかく、このまま放置するわけにはいかない。  乃木は腕の中で胎児のように丸まっている成世をそっと抱き締めた。
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