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side成世
いつも夢で見るのは親父が撃たれるシーンだ。
実際にその現場を見たわけでもないのに、悪夢はどこまでもリアルで、どこまでも残酷だ。
硝煙の匂いと飛び散る脳漿、親父の苦悶と絶望。屈辱と無念。親父が撃たれて絶命するシーンを無意識のうちに何度も脳内で繰り返す。
――親父……。
声なき声が聞こえる。最後に親父は自分の名前を呼んだだろうか? 己の信念が志半ばで閉ざされることを知り、絶望しただろうか?
哀しさと悔しさで目が覚める。全身にびっしょりと汗をかき、歯を食いしばったせいか顎が痛い。
けれど、本当に怖いのはその後だった。
後藤田が亡くなってから、成世は何度もその夢を見ていた。
後藤田の死で傷つくこともうなされることも、もう体が慣れてしまっている。今、成世が恐怖を感じているのは、その夢の続きだ。
夢の中で後藤田の遺体はやがて乃木の姿に変わる。
卑劣な銃弾に撃たれて冷たくなっているのは、後藤田ではなく恋人の乃木なのだ。
――なんで……こんな……。
夢の中の成世は自分の口元を押さえながら、ショックのあまり呼吸もできない。吐きそうな恐怖と戦いながら、叫ぶことも泣くこともできず、ただこれが夢であってくれと祈る。
親父の時は耐えられた。
でも、もう耐えられない。
乃木が死んだら自分は……。
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