【潜入・捜査編】プロローグ

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 ――ねぇ、分かる? この男の子、どうして泣いてるの?  一枚の絵カードを見せられる。  オーバーオールを着たガキ大将のような男の子が眼鏡を掛けた男の子を殴っている。眼鏡の男の子は泣いていて、頭に大きなたんこぶができていた。  ――どうして泣いてるか分かる?  分からない……。  ――人はね、叩かれたり殴られたりしたら痛いの。だから、人を叩いたりしちゃ駄目よ。  ――分かった?  分からない。本当に分からない。  けれど、それを答えることはできなかった。また、母親を困らせてしまうから。また、母親を泣かせてしまうから。だから僕は「分かる」と答える。「痛いから」と答える。けれど、答えの本当の意味は分からない。  ねぇ、痛いって何?  痛いってどういうこと?  教えてよ。  本当に分からないんだ。  だから、僕にそれを教えてよ。  ――教えてくれ。  痛みの正体を、それがどんなものなのかを俺に教えてくれ。  酒を飲んだ母親が炬燵の上につっぷして寝ている。絵カードが天板の上でぐちゃぐちゃになっていた。  眼鏡の男の子の顔が赤く腫れている。
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