プロローグ

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 鍵が落ちていた。  鍵にも、ナイフにも、短刀にも見える一見、刃物の様な鍵。材質は銀のみで構成された純銀の鍵。鍵の柄、と呼んでいいのか分からないが、柄と思われる部分には、少年の知らない言葉が書かれていた。少年の知らない言語、それは梵字という言語らしい。ピンと来ない。少年の国では使われていない言語だ。  少年は鍵をまじまじと見つめた。他には何か変わった特徴はないかと、少年は目を輝かせる。少年は好奇心が強いという訳ではないが、それでも人並み程度には持ち合わせていた。  鍵を日光に当て、水に沈め、火で炙ったりしたが、何も変化は起きる事は無かった。というよりは、この鍵は何も受け付けない、と言った方が正しいかもしれない。光を捻じ曲げ、水を弾き、火を近付けると少年には見えない、空気の層を展開している様に思えた。  少年は次に何を試そうか、などと考えていると、村に住む友人から鍵について問われる事が何度かあった。その度に少年は、刃物を拾った、と言い切った。少年は村では真面目で優しく、義理堅い性分であったため少年が刃物と言い切ると、友人達はそれをすぐに信じた。  誰もが、この刃物にしか見えない得体の知れない存在を、銀の鍵だと疑うことは無かった。  なぜそれを少年が刃物だと思わず、鍵だと断言できたのか。それは、鍵がそう言ったからだ。  この鍵は意思を持ち、あらゆる言語に通じ、様々な知識を持ち合わせていた。知能ある鍵だったのだ。
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