プロローグ

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 若年とも、壮齢ともいえる様な、包容力のある女性の声で、少年に語り掛け、自身の素性を明かした。鍵であることや構成材質、鍵に干渉しようとする物理現象に関しては全てが無効化される事も、鍵自身が言っていた事だ。「最強の盾」鍵が自称していた言葉だ。  確かに、その言葉通りの力は持ち合わせている様にも思えた。確証から言っている訳ではなく、経験や知識が足りない幼い心が、そう幻想を抱かせたのかもしれない。少年と呼ばれる様な年頃の男子ならば、誰しもが「最強」という言葉に憧れてしまうもの。その例に少年も当てはまってしまったという事であった。  少年は鍵に質問をした。  この鍵は何の為にあるのか、と。豊富な知識量と、全ての物理現象を受け付けない「最強の盾」としての能力。そして、鍵に宿った自我。これらは、何をする為に必要なのだろうか。蛇足ではないのか? と思わずにはいられなかった。  強力な力が必要という場面が、この鍵を作った人間にはあったのかもしれない。越えられない天災を乗り越える為だったのか、遥か高みにいる強敵を打破する為だったのかは分からない。力が必要な場面があったことは間違いない。  備え付けられた能力が高ければ高い程、目の前を阻む困難は高かったのではないだろうか。この鍵は、何か強大な困難に立ち向かう為に作られた、と少年は思っていたのだ。  鍵は言った。  私は、世界を渡り歩く鍵。世界と世界を繋げる門の役割をしている、と。  鍵は、ある目的のために世界を渡り歩く必要があるとも言った。その目的が何なのかは鍵から告げられることは無かった。それでも構わなかった。  その目的の為には、生身の体を持ち、世界を渡り歩く事が出来る人間が必要だと鍵は言った。少年は心を躍らせた。その条件は少年でも突破できるからだ。少年らしい無邪気な笑顔を浮かべ、目を輝かせた。  平穏に生きて、平穏なまま死んでいくと思っていた自分が平穏な日常から脱却する、またとない機会ではないだろうか。おそらく、この機会を逃せば、この村で一生退屈な人生を過ごす事になる。そんなのは嫌だった。  だから、少年は決意をした。鍵と共に、世界を渡り歩く事を決めた。その決意に何の疑念も持たないまま。
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