プロローグ

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 少年はそれから、数々の世界を渡り歩いた。ロボットと呼ばれる人工生命体が暮らす世界。巨大な図書館の様な、本しかない世界。戦争と内紛が絶えない、血で血を洗う世界。「サムライ」と呼ばれる男達が「カタナ」と呼ばれる武器を持ち、戦う世界。  鍵曰く、世界は無数にあるらしい。数える事すら、馬鹿らしくなる程に。鍵はそれを無限、と称した。少年はその事実に、内心喜びを隠しきれなかった。無限の世界が存在するという事は、寿命が尽きるその日まで世界を渡り歩く事が出来るからだ。  退屈な日常など、既に存在しない。刺激に満ちた世界が、無数に広がっている。  こんなに幸せなことはない。少年は一生、鍵に付いていこう、と決めていた。その為には、少年自身も強くならねばならない、と思い少年はあらゆる世界で力を身に着けた。技術や技、時には世界特有の神秘な術も習得できるものは全て習得した。  やがて年月が経ち、少年は青年になった。  青年は鍵にも一目置かれるほどに実力を身に着け、渡り歩いた世界の先々で名を轟かす程にまで成長した。それでも、青年は慢心する事も、傲慢になる事も無かった。常に鍵と共に在る存在として相応しくある様、心掛けていたからかもしれない。  そうしていなければ、不安だったからだ。鍵が自分の下を離れるのが怖くてたまらなかった。強く在り続けなければ、鍵は違う人間の下へ行ってしまう。そう思ったら、盲目的に力を追い求めていた。  青年と鍵が共に世界を渡り歩いてから、百か所目の世界にたどり着いた時。  青年はその世界を怖い、と思った。  自然も機械も人も、一つも存在しない。見渡す限り真っ白な世界。どこまで歩いても白で埋め尽くされ、方向感覚などすぐに役に立たなくなった。何千、何万歩と歩き青年の精神は徐々に追い詰められていった。恐怖が心に生まれる。  出口の無い世界。どちらに進んでも道は無く、それでも青年は道なき道を走った。生命の無いこの空間を、ひたすら走り続けた。
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