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鍵を落とす。
そうだ、鍵でこの世界を出よう。今までの様に、違う世界に渡り歩こう。
青年は鍵に呼び掛けた。答えない。焦る心のままに、何度も呼び掛けた。優しく呼び掛けていた口調も、最後には怒声の様になった。
青年は白の世界に座り込んだ。言葉は出てこない。この世界で死ぬのだ。この牢獄の様な世界で、誰にも気付かれる事なく死んでいく。
嫌だ。こんな場所で死ぬなんて。
青年は気付けば叫んでいた。反響すらしないこの世界で。本当に声は出ているのだろうか、と疑いたくなるが、それでも叫び続けていた。
出せ! ここから出せ!
その声は誰にも届かない。と思われた。
青年の声に反応したかの様に、目の前に赤い光が姿を現した。
あまりの眩しさに青年は思わず目を両腕で隠した。腕の隙間から覗き見ようとすると、赤い光はより一層明るさを増し、青年はそこで目を閉じた。目を閉じていても分かる。赤の閃光。それは青年の視覚を一時的に遮断させる程の光量を有していた。
声が聞こえる。相変わらず目は開けられないが、誰かが直接脳に語り掛けて来ている、そんな気がした。
鍵の声ではない。威厳に満ちた男性の声。ただ普通に喋っているだけであろうに、音で脳内を殴られているかの様な、研ぎ澄まされた刺々しい声は青年にある真実を非情にも告げた。
お前は、この空間で一生を終える。ここは監獄。ここは牢獄。罪を犯した者を閉じ込めておく、白の監獄。ここでは全てが意味を持たない。どんな力も無効化される。ここは天国、ここは地獄。どちらに見えるかはお前次第だ。
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