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「神父さま、相談があるのですが」
室内に向かってコロンバが小声で問い掛けると戸が開いた。彼女はさっと部屋に入る。
「どのようなことですか」
神父は正確な朝鮮語で優しく応えた。
「良宮のお二方のことでございますが、明道会入りを認めて頂けないでしょうか」
明道会とは、天主教の“幹部たちの勉強会”的な組織で、信仰に熱心であることはもちろんのこと相応の知識があり、布教実績がなければ入れなかった。
「御存知のようにお二方は熱心に学ばれているので相当な知識をお持ちになっています。そして良宮の宮女や下働きの者の多くが神の教えを知るようになりました。御二方の力によるものでしょう」
入会の条件は十分に満たしているということである。
「分かりました。さっそくアウグスチヌス会長に連絡しましょう」
数日後、コロンバはいつものように講義を終えた後、
「今日は喜ばしいお知らせがございます」
と言いながら縣夫人と申夫人の前に書付とロザリオを置いた。
「御二方は明道会の会員になられました」
「まことか!」
「はい、こちらが会員の証でございます」
明道会についてはコロンバから聞いて既に知っていたが、まさか自分たちが会員になれるとは思ってもいなかった二人は驚きそして有り難き事と感謝の祈りを捧げるのだった。
その後、二人が以前にもまして熱心に天主教について学ぶようになったのは言うまでもない。
天主教を学び始めてから縣夫人は以前のように過ぎし日のことを思うことはなくなった。代わりにイエスやその弟子たちの人生について考えるようになった。遥か昔のことなのに共感することが多々ある、人の思いというものは古今東西変わらぬものなのだ、そう思うと全てが愛おしくなるのだった。
ある朝、目覚めた時、縣夫人はふと思った。以前は不愉快だった朝なのに今は気分がいい、日が昇り夜が明けることは全く同じのに。結局、自分の心持ち一つで何事も変わってしまうのだ。そうだ、天主がこのことを気付かせて下さったのだ。
縣夫人の心の中で何かが吹っ切れた。
さっそくこのことをコロンバに告げた。そして申夫人ともども洗礼を望んでいることを伝えた。
「分かりました。神父さまにお願いしてみましょう」
コロンバは二人が遂に天主に帰依する決心をしたことを心から祝福した。
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