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 すぐに部屋の前に来た宮女は地面に平伏していた。 「先ほど歌っていたのは汝か?」  女主人の問い掛けに宮女は振り絞るような声で 「さようにございます」 と応じた。 「面を上げてもう一度歌いなさい」 「お許しください」  宮女は悲鳴を上げるような口調で応えた。娘の態度から彼女はあることに思い至った。彼女は宮女に部屋に上るように命じ、娘が室内に入った後すぐに戸を閉めた。  宮女と侍女と彼女の三人だけになった。 「何も恐れることはない」  彼女は優しい口調で再度頭を上げるよう命じ、言葉を続けた。 「汝は天主教の信者ではないか? 先ほどの歌も天主教のものであろう」  半身を起こしていた宮女の顔は青ざめ再び平伏して叫んだ。 「お許しください」 「許すも何も。私はそなたの歌が気に入ったのだ。どうだ、もう一度歌ってはくれぬか」  女主人が言うと侍女も「おっしゃるとおりになさい」と言葉を重ねた。  宮女は、もはやこれまでと心を決め、歌い始めた。  異国の言葉だろうか歌詞は分からなかった。ただ、その旋律はまろやかで心に染み入った。彼女は知らず知らず涙を流していた。宮女が歌い終えると彼女は感嘆の声を上げた。 「何と妙なる調べであろう。汝はこの歌の意味を知っておるか」 「いいえ。父なる神を讃えるものだと外祖母が申しておりました」  一曲歌った後で気持ちが落ち着いたのか、宮女はきちんと答えられた。 「この歌の意味を知りたい。そなたの外祖母を連れて参れ」
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