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宮女・徐景儀は自身の外祖母・趙氏と共に良宮の主人である宋縣夫人のもとに向かった。昨日景儀の歌を耳にした縣夫人はその内容に興味を示され彼女に歌を教えた趙氏を呼ぶよう命じられたのだった。
孫娘から事情を聞いた趙氏は懐に聖母マリアの絵姿を忍ばせてきた。もしかすると縣夫人が天主教に関心を持たれているのではないかと思ったからである。
縣夫人の侍女の案内で部屋に通されると、そこにはこの部屋の主人とその侍女の他に縣夫人の嫁の申夫人の姿もあった。
景儀と趙氏が縣夫人の正面で平伏すると
「面をあげよ」
と頭を上げるよう言った。そして景儀に昨日の歌を歌わせた後、趙氏にその内容を訊ねた。
「御恐れながら申し上げます。これは天主教の聖歌で…」
趙氏は歌詞内容を説明し始めた。
「天主は我らの苦しみや悲しみを分かっていると…」
話を聞き終えた縣夫人は口を開いた。
「はい。天主は私たちをこの苦界から救うために独り子をこの世に下されたのでございます」
趙氏はこう応えながら懐から一枚の絵を取り出した。赤子を抱いた女性の絵である。
「この子が神の子イェスで女性は母親のマリアです」
絵姿を見ながら縣夫人は、幼き頃の息子・常渓君を思い出した。
「天主について知りたくなったのだが教えてくれぬか?」
聖歌の旋律と歌詞内容そしてマリア母子の絵を見て縣夫人は天主教に心惹かれ始めたのである。それは嫁の申夫人も同じだった。
この言葉を聞いた趙氏は平伏し感激に満ちた口調で答えた。
「有り難きお言葉、恐縮至極にございます。ただ私には十分な知識がございませんゆえ別の詳しい者にしたいと思いますが如何でございましょう?」
「それは構わぬ」
縣夫人の承諾を得た趙氏は満ち足りた気持ちで孫娘と共に退出した。あのように高貴な方も自分たちと同じく天主の教えを信じるようになりつつあるのだから。
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