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鳥の声に誘われ、縣夫人は目を覚ます。このところ、彼女は爽やかな朝を迎えている。顔を洗い身支度を済ませて朝食を摂る。ここまでは以前と変わりないが、その後に嫁の宋氏とともに天主教の書物を開くことが日課に加わった。前日、コロンバが教えてくれたことを復習するのである。午後になるとコロンバがやって来て教義を解く。天主教は知れば知るほど興味がわき、同時に心が安らいでいくのを感じた。
「コロンバや」
その日の講義が一段落したところで縣夫人は呼びかけた。
「はい、何でございましょう?」
「今朝、久し振りに庭を散策してみたのだが花々が見事に咲いていた。以前ならば、ただ花の美しさに感心するだけだったが、今日はそこに創造主の存在を感じたのだ。花は毎年決まった時期に咲き、木は実を付ける、当たり前のことだがこれも創造主が私たちの暮しに彩りを添えるようになされたことではないかと思ったのだ」
女主人の言葉にコロンバは内心で感嘆した。縣夫人は天主教を深く理解なさっている。
「縣夫人のおっしゃる通りにございます」
コロンバが応えると縣夫人は嬉しそうに微笑むのだった。
恐れ多いことだが、宋縣夫人も申夫人も教え甲斐のある生徒であるとコロンバは思った。初歩的な書物の勉強は既に終わり、丁アウグスチヌスが著した初歩的な西学の書物も紐解くようになった。
ある日、いつものようにコロンバが良宮に入ると聖歌が聴こえてきた。縣夫人の居所に着くまでの間に何回も耳に入った。宮女や下働きの者たちが歌っているのである。このことを縣夫人に話すと
「宮女や下働きたちが天主教に興味を持つようになったので教えてやったのだ」
とのことだった。
その日の講義を終えたコロンバは、帰宅するとすぐに離れの部屋に匿っている周ヤコブ神父のところへ行った。
ヤコブ神父は中国人で朝鮮の天主教の請願によって北京の教会から朝鮮に派遣された人物である。朝鮮は天主教が禁じられているので合法的に入国したわけではない。信者たちの力によって秘かに国境を越えてきたのである。
朝鮮に入った周神父は、宣教師もなく僅かながらの書物のみで信仰が広がっていることを改めて知り感動した。彼はこうした信徒たちに尽くそうと改めて決心したのだった。
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