混濁する記憶は昼過ぎの陽炎

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混濁する記憶は昼過ぎの陽炎

1  台所に立ち目の前に二つならんだ弁当箱に卵焼きとアスパラのベーコン巻きを詰める。ちょっと焼き過ぎた感じはあるが味は悪くないはずだ。卵焼きの切れ端を口に入れて味を確認する。  甘くない卵焼きが僕の好きな味だ。しずるの実家は甘すぎるほど甘い卵焼きの味付けだったらしいが、僕と結婚してから僕の味に慣れて今では甘い卵焼きに違和感を感じると笑いながら言っていた。  おかずの熱が冷めるのを待ってから弁当の蓋をする。今日は二人で花見に行く予定だった。最近、しずるの仕事が忙しく二人の休みが合わなかったけれど、今日はたまたま休みがあったので昨日のうちから予定を立てていたのだ。  水筒にお茶を入れて弁当と一緒にトートバックに入れた。ちょうど寝室の扉が開いてしずるが顔を出した。化粧も終わっていつもより少しだけ可愛らしい服を着ている。 「どう?」 「可愛い。似合っているよ」 「どういたしまして」  少しだけ照れくさかったのか肩を竦めて小さくうなずいて見せる。
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