死者は語れず使者にはなれない

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 町は年末に向けて賑やかさを増していた。取引先の会社からの帰り道行き交う人たちの表情にもどこか楽しげな雰囲気がある。  美里さんが亡くなってからすでに一ヶ月近くが過ぎようとしていた。クリスマスを過ぎてカラフルだった町並みが落ち着いた色へと変化していく。  コートの間から入り込んでくるすきま風も体の芯を冷たくさせてくる。背中から追いすがってくるような冷気から逃げるように会社のビルの中へと転がり込む。  顔馴染みの警備員に会釈をすると向こうもにこやかに会釈を返してくれた。 「ああ。先輩おかえりなさい」  ロビーの奥から奈良崎がにこやかな笑顔を浮かべながら近づいてくるの見えた。 「ああ」 「取引先はどうでした?」  取引先が突然、納期を早めてほしいと言ってきたのには正直に言えば肝を冷やした。納期を早めてほしいが仕様を変える気はないとむちゃくちゃを言ってきたのだ。
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