死者は語れず使者にはなれない

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「なんとか折り合いをつけてきたよ」  思い出すだけでうんざりする。話が通じないというかこちらの言っている事を理解するつもりがないのかと思うほど話を聞かない人たちだったのだ。  根気よく何度も同じ話を繰り返して、頭を下げ続けてようやく納期を後ろ倒しにすることを納得してくれたのだ。まだ怪訝な顔をしていたのが不安が残るところだが、書面に残してきたのだから、下手な事にはならないとは思う。 「そうとう、やられた見たいですね。お疲れさまです」  奈良崎が苦笑しながらわざとらしく頭をさげてくる。 「お前な」  明らかにおどける奈良崎に僕も苦笑を浮かべるしかない。あまりにいつも通りだった。あまりにいつも通り過ぎる。  美里さんの事件はまるでなかったかのようだ。僕自身意識しないと奈良崎が葬送屋という都市伝説の正体という事を忘れてしまいそうだった。
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