死者は語れず使者にはなれない

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「そっか。でも君は渡瀬さんを助けた事にもっと自信を持っていいとおもう。誰が認めてくれなくても。君自身が認められなくても。私が認めてあげる。言ってあげる。君はすごく立派な事をしたんだよ」  薄くほほ笑みながらしずるが言って、僕の頭を一度だけ撫でる。少し照れくさかったが単純に嬉しかった。 「今日は疲れたでしょ。お風呂入ってきなよ」  しずるに促されててお風呂場に向かう。着替えを渡されて脱衣所の扉を閉めようとした時、しずるがふと真剣な顔をして聞いてきた。 「ねぇ。君はさ。気づいてる?」 「ん? 何に?」  質問の意味が分からず聞き返す。するとしずるはすぐに笑顔に戻って首を横に振った。 「ううん。何でもないよ」  言って扉を閉める。僕としずるとの間を遮るように扉が閉まってがたんと音を立てた。
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