混濁する記憶は昼過ぎの陽炎

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「平和だなぁ……」  桜を眺めながらぽつりとつぶやく。 「何それ」  しずるがくすくすと笑う。 「何の心配事もなくて自分の好きな人と一緒に桜を見ながら他愛もない話をするって最高に幸せだなってなんとなく思っただけだよ」  しずるがぽかんと口を開けて僕を見てくる。何かおかしなことを言っただろうか? 「ケイ君ってたまにロマンチストな事いうよね。普段は現実的な事ばっかり言ってるくせに」 「ほっとけ」 「まぁ。そういう所も可愛いと思うよ」  二十代半ばに差し掛かろうという男に向かって可愛いという表現は誉められているのかどうかは疑問だったが、しずるが楽しそうにしているので良しとすることにした。  たたた。と小走りでしずるが先を行く。ポニーテールに縛った髪が走るリズムに合わせて揺れる。普段は降ろしているが今日は動きやすいようにと縛ってきていた。
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