混濁する記憶は昼過ぎの陽炎

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 ジーっと僕を見ている視線を感じて隣を見てみると、しずるが僕の弁当を覗き込んでいた。 「中身は一緒だよ?」 「そっちの方が美味しそう」  言って箸を僕のアスパラ巻きに向ける。いや、一緒だって。と言いながら弁当箱を差し出す。箸がすっと伸びてきて弁当箱からアスパラ巻きを誘拐していく。  さっと口に含むと「んー」と言いながら顔をくしゃくしゃにする。 「おいしー」  ああ。この表情を見ると作ったかいがあったなと思う。 「どうして、こんなに美味しいの?」 「外で食べているからじゃない?」 「いや、私が作るより美味しい気がする」 「気のせいでしょ」    しずるは決して料理が下手なわけでもないし、僕が料理が特別上手なわけでもない。 「敢えて言うなら、人に作ってもらったから美味しいんじゃない」 「それだ!」  箸を僕の顔に突き付けてしずるが笑った。釣られて僕も笑う。
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