始まりは困惑の朝焼け

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一瞬ではない長い間が空く。西尾は答えない。数秒が何時間にも感じてしまうほど緊張する。やがて西尾が言ってくる。 「性質の悪い冗談じゃないんだな」  こんな会話をさっきもしたなと思いながらうなずく。 「こんな冗談言うわけないだろ」 「なら、俺も真面目に答えるよ。啓司の彼女は星野透子さんだろ」  やっぱり。という気持ちが全身を走る。やはり僕の記憶は間違っていない。僕の彼女は星野透子だ。安堵感が覆う。 「なら、内田しずるっていう名前は知っているか?」 「内田しずる? 誰だ? 聞いたことない名前だな」  西尾にも心辺りはないらしい。 「一体何なんだ?」 「いや、なんでもない。透子と付き合っていた事を確認したかっただけだ」 「変な奴だな」 「すまん」 「いいよ。気にすんな」  それから僕たちは軽い雑談をして電話を切った。
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