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最初に浮かんだのは、誰だろうこの人は? だった。見覚えがない。でも、確かに隣に立っているのは僕に間違いない。
他の写真も見てみるとやはり、僕と見知らぬ女性が一緒に写っている写真が何枚もあった。二人寄り添って自分たちで撮ったであろう写真。誰かに撮ってもらったであろうツーショット写真。どれもこれも僕の知らない女の人だ。
極めつけには富士山での写真だった。服装から見て登山ではなく観光に来たのであろう。
やはり二人で写っている写真だ。問題はそれよりも、僕は富士山になんて行った記憶がないことだ。
背筋がすっと冷たくなる感覚に襲われる。自分の記憶が欠落している。この間の事故の事といい、自分の事なのに記憶がないと言うのは恐怖だった。じわりじわりと這い寄ってくるような不安感。まとわりつくような不快感に押しつぶされそうになる。
落ち着くべきだ。記憶が混乱しているだけなのだろう。彼女のここ最近の事を思い返す。一緒に住んでいる彼女。透子の事を思い返す。記憶の中の彼女は写真に写っている女性ではない。今朝一緒に過ごした彼女だ。間違いない。ここ最近一緒に食べに行ったレストランの記憶もある。二か月前には日光に紅葉を見に行った時の記憶も今朝会った彼女だ。
一緒に暮らしている彼女が星野透子であることは間違いがない。そこには確信があった。写真の女性を見ても、恋愛的な感情は沸いてこないが、一緒に暮らしている彼女の事を思い返すとじんわりと心が暖かくなる、安堵する感情がある。僕が好きなのは間違いなく一緒に暮らしている彼女なのは間違いがない。
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