混濁する記憶は昼過ぎの陽炎

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「ほらほら。綺麗だよ」  遊歩道から少し開けた広場のような所に出て、広場の中心にしずるが立つ。春の風が強く吹いた。しずるが髪の毛とスカートを抑える。桜の花びらが一斉に舞った。  舞い散る花びらの中で笑うしずるに一瞬目を奪われる。出来過ぎた構図だなと思う。カメラを持ってくれば良かったと後悔した。  広場の隅にベンチがあったので座って弁当を食べる事にした。中身はたいしたものではない。昨日、休みが合うと分かってから花見の予定を決めたので冷蔵庫の中にあった余りもので作ったものだからだ。  しずるが弁当を開けて口に運ぶ。数回咀嚼した所で顔がパッと明るくなった。どうやら味はお気に召したらしい。ほっとする。  自分の弁当のおかずにも手を出す。アスパラのベーコン巻きを口に運ぶ。ベーコンのしょっぱさとアスパラのシャキシャキ感がいい味を出していた。  悪くないできだなと、心の中で自分で自分を誉めてあげた。
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