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「本郷先輩、美術部じゃないのにね」
高校3年のお兄さんがいる萌ちゃんが、先輩を見てそう言った。
「変わった人なの。お兄ちゃんは面白がってるけど」
本郷先輩から大きく顔を背けて話す様子から、萌ちゃんがその先輩をあまり好いていないことが感じ取れる。
だから私も、それ以上話を掘り下げようとは思わなかった。
ただ。
「あっ、村上くんと南田くん」
萌ちゃんの明るい声から目を逸らしたい一心で、つい、そのまま本郷先輩を凝視してしまう。
本郷先輩は、間違いなく学ランを汚しながら、地べたに座り込んで写生していた。
熱心というより無我夢中。自分だけの世界に浸かりきっていて、それは確かに変人の名にふさわしい様相だ。
とは言え。
他者の目など欠片も気にせず、写生に没頭している本郷先輩の、一期一会的瞬間に賭けた真剣に一途な姿は、そういう意味では美しい。
本郷先輩の純粋な色が私の目には眩しかった。
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