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「美希ちゃんはまだ、引きずってるんじゃないの?」
萌ちゃんの言葉に、愛想笑いで誤魔化すことはできなかった。南田くんに言い訳や謝罪をしたい気持ちは私にもある。
ただ、わざわざそんなことを蒸し返してどうするのだと諦めている自信のなさは拭えない。
それでも萌ちゃんの輝きに触れることで、元気もパワーも湧いてくる気がした。“このままじゃ良くない”と本当に思えてくるから不思議だ。
南田くんへの告白も、やはり友達から沢山励ましてもらい、勇気をもらって何とかやり遂げた。
私自身は空っぽでも、私を支え引っ張ってくれる友だちがいる。
きっとまた、歩ける。
まだ、進める。
私は、蓋をしていた南田くんとのコトに目を向けようと思い始めていた。
※ ※ ※
本郷先輩は、今日は、桜の木を写生していた。
桜の葉が繁り始めた様子を描いているのではない。桜の幹だけを、桜の木にかじりつくような間近で写し取っている。
そのほとばしる集中力に、私はまた釘付けられてしまう。
私にこんなに夢中になれるものがあったら、どんなに毎日が楽しくなるだろう。ずっと探していた宝物を発見したときのような高揚を沸々と感じて、何故かワクワクする。
その矢先、萌ちゃんが駆け寄ってきた。
「美希ちゃん、お待たせ」
弾むように声をかけてくる萌ちゃんに、焦点を合わせる。
「ううん。…萌ちゃん、テニス部に決めたの?」
彼女が持つラケットに視線を遣りながら聞くと、
「あ、これはね」
重そうな大きいラケットを少し上げて説明を続ける。
「お兄ちゃんの。コートまで届けたいんだけど、良い?」
私が応える前に、桜の木から声が届いた。
「原の妹さん?」
想像より少し低めの、本郷先輩の声だった。
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