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 訊いてみると柔子は首を振った。 「ごめん。お金ないし、その時期バイトとか就職で忙しくなると思うから」  謝ると友人は呆気なく引き下がり、私たちから離れてしまう。柔子はこの手の誘いをいつも断る。私たちと一緒に遊びに行きたくないのかな。 「高校生活最後だし、みんなで行こうよ。お金、少しくらいなら出すよ」 「そんなことしなくても。私はしずちゃんとご飯を食べられるだけで嬉しいよ」  柔子は笑顔で弁当箱を片付けた。遠回しにお金持ちって言ったようなものなのに、気に触った様子もない。なんでなの。弁当箱を入れたリュックサックは使い古して色褪せている。制服のジャケットもスカートも引っ張られていたせいでくたびれ、ボタンが取れそう。一方、私は母がまめに洗ってくれるので新品同然だった。それでも柔子はおなかいっぱいになり満足そうに笑っていた。私の方が良いものを持っているはずなのに……。 「どうして、そんなに幸せそうなのよ」 「しずちゃん、怖い顔してどうしたの?」  思わず漏らした言葉に柔子が目を見開く。まずい、早く何か言わないと。 「いや、その。いつも幸せそうだなって。何かやっていることでもあるの?」 「何もないよ。ただ自分の好きなものを食べているだけ」  柔子が笑うと頬の脂肪ごと口元が上がる。冷凍食品とかが好きなものって、ホントに安上がり。それとも秘密でもあるのか。そのとき、ある口実が思いついた。 「ねえ、卒業旅行の代わりにやわちゃんの家に泊まっていい?」  唐突な提案に柔子は驚く。これは何かある感じかな。そのまま、彼女の様子をうかがった。 「私は大丈夫だよ。狭いの平気であれば」  狭いのは身体のせいでは。心ではツッコミを入れたが、顔はあくまで微笑みを保つ。 「うん、平気平気。お互いお母さんに許可とって日にち決めようね」  私が頭を横に向けると柔子も真似して同意した。
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