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6
冬休み明けの教室。受験が近いせいか、いくらか静かになった。そうすると柔子の咀嚼音がよく聞こえる。でも、彼女の笑顔で全く気にならなかった。
「しずちゃん、開けないの?」
柔子が声をかけてくる。今、開けるからと弁当を開いた。すると、柔子の手が止まる。
「どうしたの? いつもと違うね」
「うん、自分で作ってみたの」
そう言って柔子に弁当の中身を見せた。少し茶色くなった卵焼きにウインナー、プチトマトにブロッコリー。コーンクリームコロッケは冷凍食品だ。
「やわちゃんみたいに好きなもの入れることも、たまには悪くないかなって」
私の言葉を聞いて柔子はにっこり笑う。それだけじゃない。私はさらにカバンから小さなケースを出す。蓋を開け、ご飯の上にかけていった。もう一つ入れ物を取り出し、キャップを外す。そして、上に渦巻き状にかけていった。
「それってこの前、夜中に食べた」
柔子の声は驚きで震えている。
「そうだよ。私、これ気に入ったの。自分、好きなことしてるって感じがいいよね」
私が言うと柔子は頷いた。
「なんか分かる気がする。私も少しもらっていい?」
どうぞ、とふりかけケースとマヨネーズ入れを渡す。彼女も同じようにかけたあと、改めて手を合わせた。いただきます、と挨拶したあと口にご飯を入れる。
あの絶妙な味わいとサクサク感が口いっぱいに広がった。
「美味しいね」
「うん、そうだね」
私が頭を横に向けると柔子も真似して同意する。今までで一番の笑顔だった。
おわり
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