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柔子(やわこ)は大きな唐揚げをこれまた大きな口で食べる。昼食時の教室は騒がしかった。雑談したりふざけあったり、皆残り僅かな高校生活を謳歌している。
「しずちゃん、食べないの?」
教室を眺める私に柔子が声をかけた。ううん食べるよ、と首を振り食事を再開する。自分の弁当を改めて見た。白米にお手製の梅干し、おかずは焼いた鮭に黄色い卵焼き。ほうれん草の炒め物にあんかけ肉団子。全て母が私の健康を考えて作ってくれたものだ。
「今日のお弁当も美味しいな」
柔子が揚げた春巻きを一口で食べる。噛みしめるほど、目を細めていった。その弁当箱の中にはコロッケやエビフライなど揚げ物が敷き詰められている。油が染みて、キャラクター柄のお弁当箱がテカっていた。不健康そうだし、冷凍食品ばかりで飽きないのかな。
「やわちゃんのお弁当、凄いよね」
「うん。自分が好きなもの、いっぱい詰めてるからね」
自慢気に弁当箱の中身を見せびらかす。柔子がちょっと前のめりになっただけでお腹は机に当たり、椅子は軋んだ。
「しずちゃんのお弁当の中身はしずちゃんの好きなものなの?」
「どっちかっていうと、お母さんが栄養を考えて入れてるというか」
そう言うと柔子の細かった目が丸くなる。
「お母さんが作ってるんだ。私はお母さんが仕事してるから、自分で作ってるの」
そして、またコロッケを頬張る。柔子は母子家庭で、バイトしないといけないほど貧乏だった。それにしては体格が良すぎるというかなんというか……。本音が出ないように口をつぐんでいると、違う席にいた友人に声をかけられる。
「静香(しずか)、卒業旅行のホテルどうする?」
「やっぱり海が見える部屋がいいな」
私が話しているうちに彼女がお弁当をたいらげた。そういえば、まだ柔子のこと誘っていない。
「やわちゃんも卒業旅行に行こう? 沖縄なんだけど」
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