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家に帰ったひかりは、家のリビングにあるソファーに座っていた。
今日はいつもと違って疲れの中に、充実感が混ざっていた。
初めてお友達ができた。それだけじゃない。
伊佐市に引っ越してきて初めてのお友達が、睦君だ。
“また睦君に会える?”
“会えるよ。”
睦君とした、最後の会話が頭で何度もリフレインする。
「どうしたの?ひかり、なんだか楽しそうね。」
母が、ひかりに声を掛けた。
ひかりは母の言葉に、ドキッとした。
睦君のことはまだ誰にも知られたくない。私だけの秘密にしておきたい出来事だった。
それなのに、何かいい事があったと母に感づかれてしまう程に、嬉しい気持ちが駄々洩れだったようだ。
「今日ね、不思議な建物を見てきたの。」
「不思議な建物?」
「そう、川内川沿いに建っているの。あの建物って何?」
母はすぐにスマートフォンを操作し、調べてくれた。
「おそらくこれだわ。曽木発電所遺構って名称らしいわよ。建物全体が見えるのは、夏だけで、普段は水の中に沈んでいるそうよ。
建物も味があるし、なんだか、ロマンティック。」
「誰かすごい人の別荘なのかと思った。」
やっぱり、母に睦君の事は内緒にしておこう。
母に話して、あれこれ質問されるのも嫌だし、万が一、冷やかされでもしたらたまらない。
恥ずかしいし、いたたまれなくなりそう。
ひかりは、なるべく普段通りの返事を心掛けた。
これ以上、母に詮索されたくない。
ひかりはそそくさと居間を出て、自分の部屋へ移動した。
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