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“また、来るね。ここに来たら、また睦君に会える?”
“会えるよ。僕はここが好きだから。”
前回会った時、帰り際に睦君はそう言っていた。
この一点に望みをつないで、今日ここにやって来ていた。
この場所で待っていれば、何度目かには会えるかもしれない。
今日がダメでも、その次か、その次の次にはもしかしたら奇跡が起きて会えるかもと。
予想を覆し、今日も睦君に会えたことが何より嬉しい。
「嬉しいよ、ひかりちゃん。君の話が聞きたいと思っていたんだ。」
それにしても、睦君のまなざしは、澄み切っている。
澄んだ空気の中で息を詰めるように見る、揺らぎが一切ない湖の水面のようだと思った。
「今日は、睦君の話が聞きたいな。」
弾んだ声だと、自分でもわかった。
睦君ともう一度会えた喜びがほころんでいた。
「僕の話はまた、今度。ひかりちゃんの話が聞きたいんだ。僕はね、楽しみにしていたんだよ。いいでしょ?」
「睦君が喜んでくれるなら、それでも、いいかな。」
「やったね。そうだな、今日はひかりちゃんの小さい頃の話が聞きたいな。」
「小さい頃ね、わかった。」
前回と同じ木陰に腰を下ろして、ダムから吹き降りてくる清々しい風を感じながら、話を始めた。
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