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夕方近くなると、帰らなければいけない時間を、気にしなくちゃいけなくなる。
途端に、寂しく感じてしまう。
「もうすぐ、帰らないといけないな。」
ひかりは視線を地面に落とした。
「ひかりちゃんを待っている人が心配するから、時間になったら帰らないといけないね。」
優しい微笑みをたたえて、音を吸い取るような澄んだ視線を向けて、睦君が言った。
睦君の眼差しは、どうして澄み切っているように見えるんだろう?
ひかりは不思議だった。
迷いや不安と言った感情は元々持っていないといった感じで、それでいて、神秘的で何らかの意志を含んでいるような強さもある。
もしかしたら、ひかりとは見えているものが違うのかも知れない。
そう思えてくる。
「わかってる。・・睦君、これってデートみたいだよね?」
ひかりの問いかけを受けて、睦君は困った顔をした。
「デートって、どういう意味なの?」
睦君の戸惑うような仕草に、可笑しさがこみ上げた。
そんなひかりを見ながら、睦君の顔もほころぶ。
「気になる子と二人で遊ぶこと、だよ。」
「それをデートって言うんだね。」
「そうだよ。」
地上に戻って来た太陽が、二人の笑顔をオレンジ色に照らし出した。
ひかりは、ごく普通の振舞いをした睦君に触れて大満足だった。
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