小学5年生 4

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小学5年生 4

「飯田さん、ありがとう。」 授業中、美奈子の机からはじき出された消しゴムを、ひかりが拾って手渡した。 美奈子は、ひかりの斜め前に座っている子で、可愛いおさげ髪に細かい花柄のワンピースを着ている。いつも女の子らしい服装を好んでいる子だ。 「どういたしまして。」 ひかりが笑顔を添えて応えた。 美奈子は、目を細めてニッコリとほほ笑んだ。 それから、小声で言った。 「飯田さん、休み時間になったら、一緒に遊ぼう?」 「うん。いいよ。」 ひかりは、素直に返事を返した。 美奈子ちゃんの笑顔に触れて、ひかりは思っていた。 ここに越してきて1か月の間、自分は何をしていたのだろ。 親切にしてもらったら、ありがとうと言う。 言葉を掛けて貰ったら、自分の言葉で返事をする。 笑顔をもらったら、笑顔を返す。 そんな単純な事が出来ていなかった。 私はここに引っ越してくるのが嫌で、ふてくされていただけだった。 友達が出来ないのは、周りが悪いわけじゃなくて、自分のせいだとやっと気が付いた。 父のせいで田舎町に来る羽目になった。 母のせいで、行きたくもない学校に通っている。 無理やり連れてこられた可哀想な私に同情してくれないこのクラスメートたちに、うんざりしていた。私は自分の事しか考えていなかったんだ。 父は言ってくれた。 「ひかり、ごめんな。父さんも頑張るから、ひかりも頑張ろう。」 母も言ってくれた。 「学校、どうだった?慣れるまで辛抱だからね、頑張ろう。」 クラスメートたちも言ってくれた。 「どっから来たの?分からない事があったら言ってね。」 私の為に掛けてくれた優しい言葉に、返事をしてこなかったのは私だ。 ひかりは、そう思えたことで肩の力が抜けたような気がした。 美奈子と友達になったのをキッカケにして、一人、また一人と友達が増えていった。 校庭で遊ぶひかりや、ひかりの友達の声が、学校で響くようになっていった。
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