小学5年生 4

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「睦君、いる?」 曽木発電所遺構へ来るのは1週間ぶりだった。 本当は短い時間でもいいから、早くここに来たかった。 でも、学校の友達との約束を守る為に、ここに来るのが遅くなってしまった。 「やぁ、ひかりちゃん。 もう、ここへはやってこないかと思っていたんだよ。君は忙しそうだからね。」 今日はうだるような暑さだというのに、睦君はなぜか清々しい様子だ。 「睦君とお話したかったから。デートしてくれる?」 「デートだね。もちろん、僕はひかりちゃんの話が好きだよ。」 睦君の表情は、相変わらず優しい微笑みに、澄み切った眼差しをしている。 「ありがとう、睦君。夏休みになったら、毎日、睦君に会いに来てもいい?」 「僕はここにいるから、ひかりちゃんが来たい時だけくればいいよ。」 「睦君は、予定とかないの?」 「僕の事は、気にしないで大丈夫だよ。 ひかりちゃんが来るときは、僕もここにいるから。 ひかりちゃん、くれぐれも無理をしてはいけないよ。いいね?」 「わかった。睦君はここが本当に好きなんだね。」 「そうだよ。よかったら、今日は稲荷神社まで歩いてみないかい?」 「いいね。」 睦君と並んで、歩くのも楽しい。 今日こそ睦君の事を聞こう。 そう思っていたのに、どうしてだろう、睦君を目の前にすると聞く機会を逃してしまう。 それでもいい。睦君と楽しくお話ができるなら、それでいいよね。 ひかりはそう思い直していた。 睦君の血液型が苦手なB型だったとしても、星座が相性の悪い水ガメ座でも、歳が10歳以上離れていたとしても、睦君は睦君に変わりないのだから。 ひかりは、睦君を時折見ながら、稲荷神社までの道を歩いた。
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