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「ひかりちゃん、明日はここへ来てはダメだよ。」
唐突に、睦君が真剣な眼差しを向けて言った。
「どうして?睦君、用事でもあるの?」
とっさにそう聞き返した。
もしかして、何か悪い事でもしちゃったのかなぁ・・少し、心配になった。
睦君のこんな表情は初めてだったからだ。
「ひかりちゃんが、疲れているからさ。」
睦君の解答に、そっと胸をなでおろした。
待って、それって、もしかして、睦君は私の心配をしてくれてるって事?かな?
キャー、どうしよう。睦君の気持ちが嬉しい。
「睦君、心配してくれるの?優しいんだね。ありがとう。でも、私は大丈夫。」
ひかりは、“自分は頑丈だけが取り柄だ”と、自負していた。
それに、この伊佐市は、前に住んでいた街よりも過ごしやすい。
だから、多少の疲れがたまっていたとしても、なんて事はないと思っている。
「ひかりちゃん、僕の言う事は聞くべきだよ。」
睦君の口調は、子供を諭す先生のようだった。
「分かった。」
ひかりは素直に返事をした。
睦君は、私を心配してくれいるんだ。嬉しくて、にんまりとしてしまいそう。
気を付けなくちゃ・・。
「今日は、涼しい木陰で、ゆっくり話でもしょうか。」
「そうだね。」
睦君といると、どこからともなく心地よい風が吹いてくる。
暑く熱せられた空気が、あっという間に入れ替わった。
この風はどこか、睦君に似てる。
そんな気がした。
気温に鈍感なのか、睦君を追いかけるように吹く風のせいなのか、理由は分からないけど、隣で朗らかに笑う睦君は、相変わらず、ひょうひょうとしている。
私は汗びっしょりなのになぁ、ひかりには不思議だった。
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