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小学5年生 6
「睦君・・」
朝モヤが微かに辺りを霞ませている。
まるで高原の早朝のように、清浄でよどみのない空気感だ。
その中で睦君が、朱色に塗られた能楽堂のような舞台の上で舞を舞っている。
平安時代の人が着ているような着物をまとった睦君は、雅で美しい。
舞台を取り囲むように舞台の上にも下にも、たくさんの観客が、睦君の舞を鑑賞している。
ここに集う観客たちは、みな艶やかな着物を身にまとい、まるで平安絵巻の中に迷い込んだようで、浮世離れしていた。
この辺りの地面は、真っ白な玉砂利が敷き詰められ、歩くとザクザクと音がする。
ここは多分、何処かの神社の境内だと思う。
目を凝らして見た先に、朱色の大きな鳥居が遠くに見えた
左手にある立派な本殿らしい建物は、教科書でみた寝殿造りだ。
境内の中心には、睦君が舞を披露している建物があり、多分、これが神楽殿だと思う。
神楽殿は、神さまに音楽や踊りを奉納する為に建てられた建物だ。
建物はすべて朱色に塗られ、地面の真っ白な玉砂利が朱色を引き立てている。
日本的で美しい光景だ。どこか懐かしい、そんな気にさせる。
ひかりは、少し離れた場所から華麗に舞う睦君を目で追っていた。
何も分からないひかりでも、睦君の舞には選ばれた才である証を有しているという説得力があった。睦君がなぜ、この場所で舞を舞っているのだろう?
そう考えながらも、睦君の舞に酔いしれていた。
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