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うやうやしい笛や太鼓の音が止み、睦君が舞台上で一礼し、舞台から去っていった。
睦君が見えなくなると、急に居たたまれない気分に陥った。
着ている服だってごく普通のTシャツにチェックのブルーのキュロットスカートで、浮きまくっている。雅な空間には不釣り合いだ。
それに、静かに沈殿している厳粛な空気感はひかりには荷が重い。
一人だけ場違いなのは明白だった。
肌に触れているところが、やけにヒリヒリする。そんな心持ちだった。
ひかりは、立っている場所から動けずに、ただたじろぐ事しか出来なかった。
黒い上着と白い袴に着替えた雅な睦君が、歩いているのが目に入った。
真っすぐひかりの元へ歩いてくるようだ。
ひかりは、睦君に釘付けになった。
「ひかりちゃん、どうしてここにいるんだい?」
ひかりの目の前まで歩いてきた睦君は、目を見開き驚いている。
こんなに驚いた顔をするのは珍しい。
「どうしてだろう。多分、私は寝ている。夢の中だよ。」
「ひかりちゃん、僕に会いに来てくれたんだね。」
「私は睦君をずっと気にしているんだと思う。
だって、睦君の事は何も知らないし、睦君があの場所にいなければ、会えなくなるでしょう。
だから睦君は今日もあそこにいるのか、確認したくなってしまうの。私も睦君とお話するのが好きだから。」
「ひかりちゃん、心配はいらないよ。僕はいつでもあの場所にいるから。」
睦君の手がひかりの頭に触れた。その拍子に目をつぶった。
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