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ひかりが目を開けると、いつもの自分の部屋だった。
特徴のない白いだけの天井に、まん丸なLED照明が張り付いている、見慣れた天井だ。
今まで自分は、どこかの境内にいた。
肌に残る空気感や、歩くと伝わる玉砂利を踏む感覚に、場違いすぎて気恥ずかしい思いや、睦君の素晴らしい舞を目の当たりした感動が、まだ体に色濃く残っていた。
確かに私はあそこにいた、リアルな感覚があるのに、なぜか自分の部屋にいる。
曽木発電所遺構で会う睦君しか知らないひかりには、さっきまでの睦君の姿が鮮明に脳裏に焼き付いていた。
雅な舞いは、圧倒的な存在感と凛とした静けさを漂わせていた。
そうだ、あの澄み切った眼差しだ。
“睦君は一体、何者?”
ずっと抱えていた疑問が、見る間に大きく膨らんでいった。
これまで何度も睦君に聞こうと思ってきた。
その度に、“まぁっ、いいか”と聞けずにここまで来た。
やっぱり知りたい、睦君の事が知りたい。
今までの思いが大きく膨らみ、はち切れて、あふれ出していく。
ひかりは、布団から飛び起きた。
さっきまで感じていた体のダルさは、少し眠ったからか何処かに消えていた。
そっと部屋を抜け出し、外に出ると、自転車を走らせた。
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