1人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
次に頭に浮かぶのは、睦君。
夏が終わってしまえば、睦君には会えなくなる。
曽木発電所遺構は、9月に入ると、水かさが増え始める。
水が増える事で、睦君の世界とこの世界をつなぐ道が閉ざされ、睦君はこちらへ来られなくなってしまう。
その日は、もうすぐそこまで迫っている。夏が終わる日に、会えたらいいな・・そう考えながらランドセルに用意した持ち物を突っ込んだ。
いつもより早めに、この曽木発電所遺構に到着した。
「睦君、いる?」
ひかりが声を出した。
「やぁ、ひかりちゃん。今日は浮かない顔をしているね。」
「夏休みは、今日までだから。」
「僕は、嬉しいよ。ひかりちゃんに会えたからね。」
「私も、嬉しいよ。今日も睦君に会えたから。」
睦君は笑顔でうなずいた。
ひかりは、そんな睦君を見ながら思った。
どんなに寂しくても、暗い顔はしたくない。睦君といる時間を楽しいだけの時間に変えたい。
睦君だって、きっとそう思っている。寂しいより、楽しいの方が断然いいもんね。
ひかりは、笑顔を作って見せながら、睦君に問いかけた。
「今日は、どんな話をしようかな?」
「ひかりちゃんの好きな食べ物の話が聞きたいな。」
「分かった!」
いつもの木陰に腰を下ろして、最後の夏休みをここで過ごした。
最初のコメントを投稿しよう!