1人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
23歳
この年、ひかりは23歳になっていた。
ひかりの髪は肩まで伸び、緩いパーマが、洗練された印象を与えている。
この日の為に、美容室に行ったかいがあった。
顔だって、大人の女性らしくメイクが施されている。
帰り際、会社のトイレで化粧を直してきた。
「うん、大丈夫。」
ひかりは鏡に映る自分の顔を確認して、そそくさと会社を出た。
普段、化粧直しなどしたことはないし、美容院だってほとんど近寄らない。
そんなひかりがそわそわしているのには訳がある。
夏がやって来たからだ。
仕事帰りのひかりは、わくわくしながらこの場所へやって来た。
辺りは真っ暗で、遠くにある小さな街灯がポツポツと見えるだけだ。
月明りだけで前へ進む。
「睦君、いる?」
「やぁ、ひかりちゃん。今年もまた会えたね。」
そうだ、この声だ・・毎年、睦君の第一声を耳にするとひかりは胸がいっぱいになる。
私はこの日の為に、今日まで頑張ってきたんだと、生きる実感が湧きあがってくる。
「睦君は変わらいね。」
睦君に会えた喜びをかみしめながら、声を掛ける。
「ひかりちゃんは、会うたびに変わって行くね。」
久しぶりに会えた睦君は、どこか寂しい気な表情だ。
「そうだよ、私はどんどんおばあちゃんになっていくんだから。そうなったら、睦君に会うのが恥ずかしくなりそう。」
ひかりは、努めて明るい声で答えた。
静まりかえったしっとりとした空気が、嫌な予感を運んでくるような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!