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「ひかりちゃん。君がここへ来るのは今日で最後だよ。
君の選択は正しいよ。その選択に自信をもってほしいんだ。
僕のことは気にしないでいいからね。
君の選択もこれから進む道も、僕は歓迎しているんだよ。」
睦君のいつもの澄み切った眼差しが、ひかりを貫通していく。
「睦君、嘘だよね。これからも私が生きている限り、夏は巡ってくる。
この場所以外で夏を迎えるなんて、考えられないよ。」
「ひかりちゃん、僕からの贈り物を受け取ってほしい。」
「贈り物?」
「勾玉と翡翠だよ。
この勾玉は僕の事でひかりちゃんが苦しむ事がない様に導いてくれるからね。
君はこれから、人間としてやるべきことをするんだよ。
全うしてほしい。それが人間として生きる道だからね。
その道に僕が影を落とす訳にはいかないから、念のためだよ。
この翡翠は、君が人生の終わりに僕に会いたいと思ってくれたら、
僕がいる場所へ導いてくれる。
荒田天神社で待っているよ。僕はあの神社に携わる神使だからね。
この石に導かれて来たら、僕が見えるはずだよ。もし、会えたらまたデートしよう。
約束だからね。それじゃ、お別れだよ。」
そう言うと、睦君は煙の様に静かに消えて見えなくなった。
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