23歳

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「睦君・・」 あたりは暗闇と静寂があるだけだった。 手渡しされた二つの石には、睦君の手のぬくもりの余韻が残っていた。 ひかりは石を握りしめて、泣き崩れた。 せめて、このぬくもりは消えないでと心が叫んでいた。 溢れる涙が頬を伝っている。 涙が流れる程に、不思議と心が穏やかになって行くような気がした。 そのうち、流れる涙もいつしか消えていく。 大荒れの心も少しずつ、大きな波が小さくなっていく。 ひかりから込み上げるこの切なくて苦いような想いは、勾玉が吸い取っているのかもしれない。 しばらく動けずにいたひかりだったが、分厚い雲はいつしか消えて、晴れ渡った空を取り戻していった。 真っ青な空には、雲一つなく、風も止んだ。 こんなにうららかな気分は久しぶりだった。 「そうだよね。いつまでも睦君に頼ってちゃ、ダメだよね。」 ひかりの心は、揺らぎが消えた水面と変化し、鏡の様に心模様をくっきりと映し出した。 私が進むべき道は、はっきりと見えている。 この道を、私は前を向いて歩いていく。 人として全力で生きていくんだよね。 睦君、私はもう、振り返らないよ。 睦君が待っている、あの場所にたどり着く日まで、私は生き抜くからね。 ひかりは確かな足取りで曽木発電所遺構を後にした。
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