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小学5年生 2
ここへ引っ越してきて、2週間が経っていた。
やっと現実を受け入れ始めた。
無理な抵抗も、無駄なあがきも、あの街に帰る為の特効薬には成りえない。
再び、あの街に帰る事は決してないのだから。
残念だけど、仕方がない。
いつか、前の友達に会う事が出来たら、この伊佐市の良さを教えてあげよう。
そう思えるまでに変化していた。
ひかりは一人で自転車に乗り、伊佐市の散策へ出かける。
また一つ、伊佐市の良い所を見つける。それが、ひかりの新しい趣味になった。
一番のお気に入りは、曽木の滝。
橋を越えて、田畑をすり抜けて、やがて見えてくる“曽木の滝入口”と書かれた看板が目に飛び込んでくる。
大きな橋を渡り、大きな駐車場に綺麗に整備された公園を越えた先に、この滝がある。
ひかりの家から自転車で15分のところにある曽木の滝は、とても有名な名所だ。
滝幅が210メートルで、高さが12メートルもある。
壮大なスケールで流れる滝は、東洋のナイヤガラとも評され、独特な形の千畳岩が平たく重なりあい、特別な景観を作り出している。
見る者を凌駕する圧倒的な存在感、心がすくむような迫力のある水の流れ、すべてを飲み込んでしまう神々しいまでに響く水の音、引き込まれる情景の美しさといい、この辺りに満ちた透き通った穢れのない空気。
どれを取っても、素晴らしいという言葉しか思いつかない。
ここに来ると、ただただ圧倒されるばかりで、無心になる事が出来た。
ひかりは、何度かこの曽木の滝に行っていたが、
「今日はもっと下流へ行ってみよう。」
気まぐれに、川内川と平行に伸びる林道を進んで行った。
日差しが容赦なく照り付け、半袖から出ている腕をジリジリと焦がす。
吹き出す汗で湿った肌が、時折、ダムから吹く風を受け止めた。
その風の力を借りて、一本道を走り続ける。
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