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 噎せるような花の匂いが、何時もの店内とは違ったイメージを印象付ける。鄙びた、どこか日常から切り離された空間はいつもと変わらないが、いつもと違うのはそこに華やかさを感じられることだろうか。  先程までは、花の匂いと所狭しと寄ってくれたお客さんの熱気で、賑やかだった。それもひと段落し、今は数人のピンの客が残っているだけである。どちらかというと、あまり賑やかな雰囲気を好まない客たちが、やれやれとクールダウンしてもう一杯飲もうか、というような風情である。 「それにしても、回を追うごとに周年は凄いことになるね」  ロマンスグレーという言葉はこの人のためにあるのでは、というほどそのイメージにぴったりな客、常連さんである。 「とっても有難いのですが、この日だけは別の店のようになってしまって…… 申し訳ないです」  静かに飲みたい人なのに、申し訳なくなる。 「いやいや、たまにはこんなはしゃげる日もないとね。 楽しかったよ」  最後にチェイサーの水を飲んで御馳走様という彼は、本当に楽しそうに笑った。 「また来るよ。 これ、周年のお祝いにとっておいて」
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