3/6
前へ
/15ページ
次へ
 おちゃめにおどけながら、いつもより少し多めに、だけど、俺が気を遣わない程度の金額を手渡してくる。 「ありがとうございます。 お気をつけて」  スマートな人は、限りなくスマートだ。残りの客の相手をしながら、もう一人の限りなくスマートな人を思う。  今日は店の周年で、忙しくなるだろうから遠慮しておくと、昨日言い置いて帰ったその人は、来ないだろう。変わりに小さなアレンジメントが届けられ、カウンターの隅に陣取っている。あまりにも大きなものを送られると困るだろうと配慮してくれたようで、この店に飾られている中では一番小さなアレンジメントだが、ちょうどいい大きさでカウンターに置かれているので、案外存在感がある。  最後の客が帰ったのはそれから少ししてからで、店の中は一気に静かになった。  いつも通りの物静かなバックミュージックがようやく自分の耳に入ってくる。自分のために一杯ウイスキーをロックで作って、カウンターに置く。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

226人が本棚に入れています
本棚に追加